【版と刷版の基礎知識 ─ 印刷の根幹を支える仕組み】
印刷を語る上で欠かせないのが「版」という存在です。デザイナーの方であれば「入稿したデータが刷版になる」という流れを耳にしたことはあるでしょう。しかし、実際に版がどのように作られ、どのように印刷工程で機能しているのかを正確に理解している人は意外と少ないかもしれません。本稿では、版と刷版の基礎知識を整理し、印刷現場での実際の役割や注意点を解説します。
版とは何か
「版」とは、印刷においてインキを転移させるための元となるものです。かつては木版画や銅版画のように、直接紙へインキを押し付ける形式が主流でしたが、近代印刷、とりわけオフセット印刷では「平版」と呼ばれる方式が採用されています。これは、版の表面に親油性(インキを受け取る部分)と親水性(インキを弾く部分)を共存させることで、必要な部分だけにインキをのせ、不要な部分にはインキが付かないように制御する技術です。
刷版とは何か
刷版とは、実際の印刷機に取り付けられる「印刷用の版」を指します。DTPデータから直接刷版を作る技術が一般化しており、これを CTP(Computer to Plate) と呼びます。従来はフィルムを出力してから感光材に焼き付けて版を作成する方式が主流でしたが、現在ではデジタル化により、データから直接アルミプレートへレーザーで描画する工程が中心となっています。
刷版は通常アルミニウム製で、表面には感光層が施されており、レーザーを当てることで親油性・親水性の部分が形成されます。刷版の品質が安定していなければ、印刷全体の仕上がりも大きく揺らぐため、印刷所では刷版の精度を非常に重視しています。
版と刷版の違い
混同されやすいのが「版」と「刷版」の違いです。
版 :印刷においてインキを転移させるための仕組み全般を指す概念的な言葉
刷版:実際に印刷機へ取り付けて使う物理的なプレート
つまり「刷版」は「版」の一種であり、印刷実務に直結する現場的な呼び名といえます。
刷版の耐刷性
刷版には「耐刷性」が求められます。これは、同じ版を使って何枚の印刷物を安定して刷れるかを示す指標です。一般的なアルミ刷版では数万枚の印刷が可能で、大部数印刷に適しています。一方、デジタル印刷のように刷版を使わない方式では、少部数でも効率よく印刷できるため、小ロット案件と大部数案件とで使い分けが行われています。
カラー印刷における刷版
フルカラー印刷では、C(シアン)・M(マゼンタ)・Y(イエロー)・K(ブラック)の各色ごとに1枚ずつ刷版が必要です。したがって、1つのデザインをカラー印刷する場合、基本的に4枚の刷版を作成します。特色を加える場合は、その分刷版も増えるため、コストや工程管理に直結します。
データと刷版の関係
デザイナーの入稿データが正しく刷版に反映されるためには、いくつかの注意点があります。例えば、オーバープリントやヌリタシ設定が不十分だと、刷版出力時に不具合を引き起こすことがあります。また、細すぎる罫線や小さい文字は刷版上では再現が難しいため、設計段階から考慮が必要です。
特に線幅は0.25pt以上、文字サイズは4pt以上が実務的な目安とされます。これらは刷版の解像度(一般的に2400dpi程度)との関係で決まるもので、製版担当者との連携が欠かせません。
まとめ
「版」と「刷版」は印刷工程の根幹を担う存在です。版の原理を理解することで、なぜデータ作成時にオーバープリントやヌリタシが重要なのかが見えてきますし、刷版の仕組みを知ることで、印刷の限界や可能性を正しく判断できるようになります。デザイナーにとっても、版と刷版を理解することは単に「入稿後の工程を知る」という意味を超え、自身のデザインを狙い通りに再現するための重要な知識なのです。




