【用紙の種類と特徴(コート紙・マット紙・上質紙など)】

印刷物を制作する際に、デザインや色の美しさと同じくらい大切なのが「用紙の選択」です。用紙は単なる印刷の受け皿ではなく、仕上がりの質感や発色、さらには読み手の印象までも左右します。ポスターやパンフレット、書籍、チラシといった印刷物は、見た瞬間に「鮮やか」「落ち着いている」「高級感がある」などの感覚を与えますが、その大部分を決めているのはインキと用紙の組み合わせです。ここでは代表的な「コート紙」「マットコート紙」「上質紙」の特徴と使い分けについて、少し専門的な観点から解説していきましょう。

コート紙 ― 発色を最大限に活かす定番用紙
コート紙は表面に塗工剤(顔料や接着剤)を塗布し、滑らかに仕上げた用紙です。光沢が強く、写真やカラー画像を鮮明に再現するのに適しています。インキが紙に染み込みにくいため、CMYKの色が沈まず、発色が鮮やかに仕上がるのが大きな特長です。雑誌やカタログ、ポスターなど、ビジュアル重視の印刷物でよく使われています。
一方で、光沢が強いぶん照明や日光で反射して文字が読みにくくなる場合があります。そのため文章を主体とした冊子には必ずしも適していません。コート紙は「情報を視覚的に伝える」ことを重視する媒体に向いていると言えるでしょう。

マットコート紙 ― 落ち着きのある質感と読みやすさ
マットコート紙は、コート紙と同じく表面に塗工処理をしていますが、光沢を抑えてしっとりとした質感に仕上げた用紙です。写真やイラストの再現性も高く、かつ反射が少ないため文字も読みやすいのが特徴です。そのため会社案内やパンフレット、記念誌など「読み物」としての要素と「ビジュアル性」の両方を兼ね備えたい印刷物に適しています。
また、光沢を抑えることで高級感や落ち着きを演出できるため、芸術関連の図録や製品カタログなどでもよく採用されます。ただしコート紙に比べると発色がややマイルドになるため、鮮やかさを全面に出したいポスターなどでは物足りなく感じることもあります。発色の強さか、読みやすさ・落ち着きか、どちらを優先するかが選択の分かれ目になります。

上質紙 ― 自然な風合いと書き込み適性
上質紙は表面に塗工処理をしていない非塗工紙の代表格です。コピー用紙やノートに近い質感で、自然な白さと柔らかい手触りがあります。インキが紙の繊維に染み込むため、発色はコート系の紙よりも落ち着いた印象になります。その分、読みやすさや温かみのある雰囲気が得られるのが魅力です。
また、鉛筆やボールペンでの書き込みがしやすいのも大きなメリットです。申込書やアンケート用紙、冊子の本文、書籍など、書き込みが想定される媒体には最適です。一方でインキが沈むため、ベタ面や写真の再現には不向きで、色が沈んでしまう点には注意が必要です。

用紙選びの実践的なポイント
印刷データを作るデザイナーにとって、用紙選びは「見た目の演出」と「用途」の両面を考えることが重要です。例えば、飲食店のメニューなら鮮やかな写真を重視するためコート紙が向きますが、落ち着いた雰囲気のレストランではマットコート紙を選んだ方が世界観に合います。逆に、セミナー資料やアンケート用紙のように参加者が書き込むことを前提とした媒体では、上質紙を選んだ方が実用性が高まります。
また、印刷方式との相性も見逃せません。オフセット印刷の場合は広い範囲で用紙が選べますが、デジタル印刷機によっては厚さやコート有無に制約があることがあります。さらに紙の厚さ(四六判90kg、110kgなど)によっても仕上がり感が大きく変わるため、仕上がりのイメージを具体的に考えて選択することが大切です。

まとめ
用紙は、単なる印刷の土台ではなく、仕上がりの印象を左右する大切な要素です。コート紙は「鮮やかさ」、マットコート紙は「落ち着きと読みやすさ」、上質紙は「自然さと実用性」という特徴を持ち、それぞれの用途に適した役割を果たします。印刷物をデザインする際には、色やレイアウトだけでなく「どの用紙で表現するか」を意識することで、より完成度の高い作品に仕上げることができるでしょう。

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