【印刷工程の流れ(前刷り〜刷版〜印刷〜加工)】
印刷物が仕上がるまでには、デザインデータの入稿から最終製品の加工・仕上げまで、多段階にわたる工程が存在します。特にオフセット印刷の場合、データ処理や刷版、印刷機上での調整といった工程ごとに専門的な管理が必要であり、ひとつでも不備があれば仕上がりに大きな影響を及ぼします。ここでは、実際の印刷会社での流れを想定しながら、各工程の役割と注意点を整理してみましょう。
1. データ入稿とプリフライトチェック
最初の工程は、デザイナーやクライアントからのデータ入稿です。一般的にはIllustratorやInDesignなどのDTPソフトで作成されたデータがPDF形式で入稿されます。しかし、フォントのアウトライン化忘れやリンク画像の解像度不足、カラーモードの不統一など、印刷に不適切な要素が含まれていることも少なくありません。
そのため印刷会社では プリフライトチェック を行い、ヌリタシ不足といった潜在的な問題を事前に洗い出します。この段階で不備を修正することで、後工程のトラブルを未然に防ぐことができます。
2. 面付けと刷版データ作成
次に行うのが 面付け作業 です。A4冊子を例にすると、1枚の大判用紙に複数ページを配置し、断裁後に正しい順序で綴じられるように設計します。面付けは製本方法(無線綴じ、中綴じなど)によって配置が異なるため、印刷設計の知識が不可欠です。
その後、RIP(Raster Image Processor)を通してデータを画像化し、CTP(Computer to Plate)によって刷版を出力します。刷版はアルミニウム基材に感光層を形成したもので、CMYK各色に応じて4枚が作成されます。ここまでが「製版」にあたる工程です。
3. 印刷(プレス工程)
刷版が準備できたら、印刷機にセットして実際の印刷を行います。オフセット印刷では「水と油の反発」を利用して、非画像部には湿し水が、画像部にはインキが付着する仕組みになっています。4色機の場合、各ユニットにブラック・シアン・マゼンタ・イエローの刷版を装着し、順番に重ね刷りを行います。
印刷中は常に 見当合わせ(位置調整) や 濃度管理 が求められます。わずかなズレでも色ブレや文字の二重化が生じるため、オペレーターはトンボを確認しながら微調整を繰り返します。また、インキ濃度や紙質による発色の違いを補正するために分光濃度計や色差計を用い、品質基準に合致するまで調整を行います。
4. 乾燥と検品
印刷が完了した直後の用紙は、インキが完全には乾いていません。油性インキの場合は酸化重合と浸透乾燥により数時間〜半日程度が必要です。当社のメイン機であるUVインキであればUVランプによって瞬時に硬化させることが可能です。
乾燥後には 検品工程 が行われます。印刷ムラ、裏移り、紙粉による汚れなどを目視や検査装置(インラインカメラ)で確認し、不良品が混入しないよう選別します。この段階で問題が見つかれば再印刷が必要になるため、印刷会社にとって重要な品質保証のステップとなります。
5. 加工・仕上げ
印刷物はそのままでは製品にならず、用途に応じた加工が施されます。代表的な工程には以下があります。
断裁:規格サイズや仕上がりサイズに裁断する工程
折加工:チラシや冊子のページ折り
製本:中綴じ、無線綴じ、上製本など用途に応じた方法で綴じる
表面加工:PP貼り、ニス引き、箔押しなど、意匠性や耐久性を高める処理
これらの加工工程は印刷物の最終的な価値を大きく左右するため、用途や予算に応じた最適な方法を選定する必要があります。
まとめ
印刷の工程は「データ入稿 → プリフライトチェック → 面付け・刷版 → 印刷 → 乾燥・検品 → 加工・仕上げ」という一連の流れで構成されています。それぞれの工程は独立しているように見えて、実際には密接に連動しています。たとえばデータチェックでの見落としは刷版の作り直しにつながり、刷版の不具合は印刷機上でのトラブルを引き起こします。
デザイナーにとっても、こうした一連の流れを理解しておくことは非常に有用です。印刷会社とのコミュニケーションが円滑になり、仕上がり品質をより確実にコントロールできるようになるからです。印刷物は単なる「出力」ではなく、複数の専門技術の結晶であることを意識して臨むことが重要だと言えるでしょう。




