【Adobeの築いたDTPと新たなDTP ~ AffinityシリーズとCanva ~】
【この記事のポイント】
•Adobe支配の歴史:PostScriptからPDF、APPEへと進化し、印刷インフラの基幹を握ることで業界標準を確立。
•新興ツールの台頭:PDFの国際標準化(ISO)に伴い、CanvaやAffinityなどの新ツールでもPDF/X-4出力が可能に。
•プロ現場のリアリティ:理論上は印刷可能でも、透明効果のバグやフォント置換など事故リスクを避けるため、現場では今も慎重な運用が続く。
Adobeの歴史=DTPの歴史:始まりは「PostScript」
DTP(デスクトップ・パブリッシング)の世界では、Photoshop、Illustrator、InDesignの「三種の神器」を擁するAdobe社が一強を誇っています。この背景には、DTPの歴史そのものが深く関わっています。
実は、Adobe社はもともと「PostScript(ポストスクリプト)」という、プリンターの解像度に依存せず高精細な描画を行うためのプログラミング言語を開発する会社として創業されました。この技術がApple社のMacintoshや高精度レーザープリンター「LaserWriter」、そしてレイアウトソフトと組み合わさったことで、「画面で見ているレイアウトがそのまま印刷できる(WYSIWYG)」という世界初のDTP環境が完成したのです。
重い描画処理の克服と「PDF/APPE」への進化
しかし、PostScriptは「描画手順を記述したプログラム」だったため、画面表示やページ移動のたびに計算処理が必要で表示が重いという欠点がありました。そこで、あらかじめ計算済みの完成データをパッケージ化したファイル形式として作られたのが「PDF」です。
1990年代後半から2000年代初頭にかけては、一度PostScriptを出力してから「Adobe Acrobat Distiller」を挟んでPDFに変換していましたが、2000年代半ばにはソフトから直接ネイティブな印刷用PDFを出力できるようになりました。さらに2006年には、製版処理(RIP)のエンジンも「PostScript RIP」から「APPE(Adobe PDF Print Engine)」へ刷新され、PostScriptは役割を終えて過去の技術となりました。
PDFのオープン化と、Canva・Affinityの台頭
2008年7月にはPDFがISO(国際標準化機構)へ移管されて国際標準規格(オープン標準)となり、他社でも自由にPDF対応ソフトを開発できるようになりました。しかし、Adobeは出力エンジン(APPE)をはじめとする印刷インフラの基幹を握り続けることで、現在もDTP業界のリーダーであり続けています。
一方で、PDFのオープン化に伴い、近年台頭してきたのがCanvaやAffinityシリーズといった新興ツールです。これらのソフトもPDF出力に対応しており、印刷用規格である「PDF/X-4」を介せば、理論上はDTPのアウトプットとして問題ないはずです。
なぜプロの印刷現場は非Adobeデータに慎重なのか?
しかし、「1箇所の印刷ミスも許されない」プロの印刷ワークフローでは、安全性が最重視されます。
データ構造の違いによる透明効果の描画バグ、特色(スポットカラー)の自動分解、フォント置換トラブルなど、目に見えない事故のリスクを避けるため、印刷会社側がこれらのネイティブデータや非Adobe由来のPDFを安易に歓迎できないのが実情なのです。




