【インキの種類と発色の違い(油性・UV・水性)】
印刷の仕上がりを大きく左右する要素のひとつが「インキ」です。同じデザインデータを使っても、使用するインキの種類や性質によって、発色や光沢、乾燥のスピード、さらには耐久性まで変わってきます。特にオフセット印刷では、インキの選択が印刷物の品質と生産性の両面に直結するため、デザイナーや印刷に関わる方がその違いを理解しておくことは非常に重要です。ここでは、代表的な 油性インキ・UVインキ・水性インキ の特徴と違いを整理しながら、それぞれの適材適所について詳しく見ていきましょう。
1. 油性インキの特徴
油性インキは、長らくオフセット印刷の主流として使われてきたタイプです。その名の通り、主成分に鉱物油や植物油を使用しており、酸化重合と浸透乾燥という二段階のプロセスで乾燥します。紙の繊維にインキ中の油分が浸透しつつ、インキ膜自体が空気中の酸素と反応して固化する仕組みです。
●メリット
・発色が自然で、幅広い用紙に対応可能
・コストが比較的安価
・インキの光沢やマット感を用紙に合わせて調整しやすい
●デメリット
・乾燥に時間がかかる(数時間〜1日以上)
・裏移り(セットオフ)のリスクが高い
・環境面で揮発性有機化合物(VOC)の排出が課題
現在では大気汚染防止や効率化の観点から、油性インキ単体での運用は減少傾向にあります。
2. UVインキの特徴
UVインキは、紫外線(UV)を照射することで瞬時に硬化するインキです。油性インキのように溶剤が蒸発したり酸化重合で硬化するのではなく、インキに含まれる「光開始剤」が紫外線に反応し、樹脂成分が一気に重合して硬化します。そのため乾燥速度が圧倒的に速く、生産効率を大幅に高められる点が大きな特徴です。
●メリット
・乾燥が瞬時で、裏移りやブロッキングがほぼない
・非吸収性の用紙(PETフィルム、金属箔、合成紙など)にも印刷可能
・高光沢で発色が鮮やか
・耐摩耗性や耐薬品性に優れる
●デメリット
・インキやUVランプ設備のコストが高い
・インキ皮膜がやや硬いため、折り加工時に割れが発生しやすい
・専用の処理設備(UV乾燥ユニット)が必須
特にパッケージ印刷や特殊素材への印刷では、UVインキの強みが大きく発揮されます。また、環境対応型として「LED-UVインキ」も登場しており、低消費電力・低発熱で注目を集めています。
3. 水性インキの特徴
水性インキは、その名の通り水を主溶媒として使用するタイプです。主に フレキソ印刷やインクジェット印刷 で使われていますが、近年は環境対応型オフセット印刷の一部にも採用が広がりつつあります。乾燥方式は「蒸発乾燥」が中心で、用紙表面から水分が蒸発することで顔料や樹脂が定着します。
●メリット
・VOCの排出が少なく、環境にやさしい
・臭気が少なく、食品包装や医薬品分野でも使用しやすい
・乾燥が比較的速い(特に吸収性のある紙で効果的)
●デメリット
・非吸収性の素材には定着しにくい
・発色が油性やUVに比べてやや劣る場合がある
・耐水性・耐摩擦性を高めるには後処理が必要
水性インキは「環境対応」をキーワードに需要が高まっており、特に食品関連の印刷物では欠かせない存在になっています。
4. インキ選択のポイント
では、実際にどのインキを選べば良いのでしょうか。これは 「用途・素材・納期・コスト」 のバランスで判断するのが基本です。
●一般的な商業印刷(チラシ・冊子) → 油性インキ(コスト重視、自然な発色)
●高級パッケージやフィルム印刷 → UVインキ(速乾性・鮮やかさ・特殊素材対応)
●食品包装や環境対応が求められる分野 → 水性インキ(低臭気・安全性)
また、「ハイブリッドUV印刷」や「LED-UV印刷」といった方式もあり、従来の油性インキとUVインキの利点を融合させる試みも増えています。
まとめ
油性・UV・水性、それぞれのインキには一長一短があり、用途に応じた適切な選択が求められます。デザイナーや印刷発注者にとっては、「どのインキを使うのか」で仕上がりや納期、コスト、環境適性までも変わるという事実を意識しておくことが重要です。印刷物のゴールを明確にした上で、インキの特性を理解し、印刷会社と相談しながらベストな方法を選択することが、高品質な印刷物づくりにつながります。




